富士写真フィルムが、7月1日に「写ルンです」のモノクローム版(左)と防水版(右)を発売しました。メーカーによると、若い人たちはフィルムカメラで撮影してプリントができ上るのを「特別な体験」として求めているらしい。私たちの世代はその「特別な体験」が生まれつきだったし、デジタルカメラに慣れるのが「特別な体験」だったので面白いなと思うのです。
子どもの頃、カメラは一家に一台のぜいたく品でした。それを修学旅行などがあると借りていって、写真を撮ります。いまでは考えられないことだけど、何日かしてカメラ屋さんにプリントを受け取りに行くと、親父さんが一枚ずつ評価してくれました。「うん、これはよく撮れたね〜」とか「これは惜しいな、ピンぼけになっちゃった」とか。モノクロのサービスサイズでも、やはり高価で非日常的なものだったのでしょう。何しろ手作業で、一枚ずつ引き伸ばしていたのですから。
被写体や構図がどうだとか言う以前に、手ブレせずにピントも露出も合ったシャープな写真が撮れる。そのフィルムを現像して、印画紙に引き伸ばして、写真として人に見せることができる。それだけで特殊技能だったのです。私の父は写真が好きで、小さな暗室を家に作っていました。そこで自分でもフィルム現像や、引き伸ばしをするようになりました。大学時代は実験心理学から落ちこぼれて、写真部の暗室にこもっていました。もちろんモノクロで、カラーなど高嶺の花でした。
就職して結婚して子どもが生まれて……というライフサイクルに入ったら、とてもではないけど写真を趣味にはできませんでした。家にモノクロ用の暗室を造るゆとりなどないし、かと言ってカラーで引き伸ばしを人任せにするのは面白くありません。カラー現像を自分でしちゃう剛の者も世の中にはいるようですが、現像液の温度管理がシビアでマニアックな世界です。それにお金も大変です。
同級生が引退する年代になり、自分もスクールカウンセラーの仕事を手放すことにしたのが、転機になりました。20年以上も学校で頑張ってきたのですから、ちょっと記念になるものを買いたいと思ったのです。車は動けば良いので満足しているし、オーディオも音は決まってしまったし、何かを生み出してくれるものではない。だったら、カメラはどうかな……と思いつきました。仙台のヨドバシカメラに行ったのが運の尽き?で、学生時代の愛機だった「オリンパス OM-2」の系譜を汲む、「OM-1 mkU」を買ってしまいました。
ちなみに、いま日本でデジタル「写真機」を作っているのは「OMデジタルソリューションズ」(旧オリンパス)と、富士写真フィルム、それにペンタックスとリコーです。もちろん動画も撮れますが、使い勝手の軸足は静止画に置いています。どうやらソニーとパナソニックは動画に軸足を置いており、二大ブランドのニコンとキヤノンはハイブリッドのようです。
いずれカメラだけあっても、写真にはなりません。みんながスマホで撮って「イイネ」をつけているのは、画像であって写真ではありません。画像に「イイネ」をつけるのは1秒あれば十分ですが、足を運んだり手に取ったりしてあれこれ思うのが写真です。昔の人間だと思われるかもしれませんが、「写ルンです」の「特別な体験」とは、そういうことだと思うのです。
私も初めのうちは、人なみにお店でプリントをお願いしていました。インクジェットプリンタで写真にできることは分かっていましたが、「プリンタ」に良い印象がなかったのです。色が変になる、紙詰まりする、スジが入る、ノズルが詰まる……と、「マトモに動かないキカイ」だと思っていました。ところがくたびれ果てた複合機(スキャナーつきでコピーもできる)を、写真も意識した6色タイプに入れ替えたところ、「文明開化」の進化を感じました。色は十分にきれいだし、ノートラブルです。これでやっと、写真を自分で楽しむ環境が整いました。
これだけ「画像は写真じゃない」とか言っておきながら、画像をお見せします。カメラの高感度ぶりを確かめようと、車で数分の田んぼに向かいました。街灯もない真っ暗な道は、何しろクマが怖いんです。三脚を立てるのも気が退けて、一脚を使って撮影しました。タイトルは「田に映える」か、「クマの恐怖」か。プリントしておけば、見るたびに「アホなことやってたなあ」と思えますね。
