ずいぶん昔のことですが、床屋のおばちゃん(ゴメン)と「客が来ないとき」について話したことがあります。
二人で同意に達したのは、「客が来ないと具合が悪くなる」(笑)でした。ここのところ新規の人が途絶えている、また来そうだった人が来なくなる……。何か失礼なことをしたんじゃないか、どこかの口コミでヘンなことを書かれているんじゃないのか、他のところに客が流れているんじゃないのか……と、あれこれ考えてしまうことがゼロだと言い切れる開業カウンセラーはいないんじゃないかな、と思うのです。
YouTubeには「カウンセラーの集客」と題する動画を投稿している人たちがけっこういて、ついコワイモノミタサで見てしまいました。中には「集客コンサルタント」みたいな人もいて、「開業カウンセラーは集客が全てです。もう一度言います、集客が全てですっ!」と連呼して、「安定した売り上げ」を確保するノウハウを説いていました。中には指南を受けて「半年で500人」を集客したクライアントと対談していました。そんなに集客してどうすんだと笑ってしまいましたが、この種の動画はコンサルテーションやコーチングの販促用のようです。
カウンセリングで開業をすると、それこそ集客から始めなくてはなりません。それは現実です。私の時代は職業別電話帳だったりしたのですが、いまはインスタグラムとかでしょうか。やりたくもないしできもしないことに、振り回されてしまいます。だから「開業なんてだれがやりたいと思うのさ」という方が健全です。組織で働いていれば集客なんかしなくて良いし、安定した収入も得られるのですから。
沢山見たわけじゃないけど、この人たちの共通点はカウンセリングを健康器具やサプリメントなどの、物販と全く同じビジネスとして捉えていることです。「商品開発」をして、その「効果」を求める人たちがアクセスできるようにする。たとえば「うつでお悩みの方」向けの商品。自分がうつで何年間もひきこもりだったけど、この方法でいまはこんなに前向きになりました……的なストーリーが必要です。それを実証する「これまで〇〇人の人から喜びの声をいただきました」とか、「顧客満足度〇%」とかも必要かもしれません。「ホントにそれだけ良くなってるの?」と証明を求められても、プライバシーをたてにすれば実例を挙げなくて済みます。「やってみたけど、ダメだった」は、「効果は人によって異なります」で終わりです。
カウンセリングは、ときとして人の命に関わります。私はこれまで40年近くやってきて、本当に良かったと思うのは「人の役に立ってきた」ことではなくて、「亡くなった人がいない」ことです。次に良かったのは自分や家族が、刃傷沙汰などに巻き込まれなかったことです。その次に良かったのは、訴訟にならなかったことです。いままでそうだったからと言ってこれからないとも言えないので、安全第一で取り組みます。
人の命に関わる医業では、従事者の資格が厳然と定められてきたし、広告や宣伝にも規制がかかっています。「集客コンサルタント」の指南を真に受けて集客したカウンセラーは、倫理的には完全にアウトだし、法律的にもグレーゾーンです。国家資格の公認心理師をもっている人はアウトで、無資格の人は医師法違反や公序良俗違反にならなければお咎めなしのグレーゾーンでしょうか。さすがに臨床心理士でひっかかる人はいない(と思いたい)でしょうが、倫理規定違反になるでしょう。「集客コンサルタント」の方は、「集客」を教えただけなのでお咎めなしです。そう言えば沈没して大勢が亡くなった北海道の観光遊覧船のコンサルタントは、元凶だったはずなのに、どうなったのでしょうか。
カウンセリングは素敵なこと、素晴らしいことというイメージがあるのか、人の役に立ちたいと思う人が大勢いるのか、関心をもつ人がとても多いようです。それは私にとっても嬉しいことなのですが、そういう人たちを食い物にしているビジネスが、「だれでも資格がもらえます」的なビジネスですね。カルチャースクールやオンライン講座など、もうゴマンとあります。それを運営しているのはおそらく就職先がなかった人たちで、就職先がなかった人たちが就職先できない人たちを大量生産し、大量生産された人たちが「集客法」を指南するという、もう目も当てらない状況が生まれているように、私には思えます。
臨床心理士でも公認心理師でもない人のカウンセリングが事故や事件、訴訟になって社会問題化すれば、カウンセリングは唯一の国家資格の公認心理師の業務独占にされるかもしれません。そうなったら困るのは、臨床心理士や認定協会です。認定協会がYouTubeなどの動画サイトで、臨床心理がいかに訓練されて責任を負ってやっているのか、どのように仕事をしているのか、楽しんで見ることができるような動画をアップするべきだと思うのです。