2015年09月25日

役に立ってナンボ

この業界の人たちは先刻ご承知ですが、9月19日に国会で公認心理師法が可決、成立しました。もう30年も昔の話になりますが、「宇都宮病院事件」というのがありました。私がこの仕事を始めたばかりの頃に、毎日のように大きく報道されていました。「日本のアウシュヴィッツ」とも言われた、入院患者の虐待と致死です。この事件で日本は精神障害者の人権を尊重するようにと、先進国にはまれな勧告をWHOからを受けています。その勧告の中には、精神医学ソーシャルワーカー(PSW)と臨床心理学者の国家資格を作る、という項目がありました。PSWは1997年に、精神保健福祉法が成立していました。心理職が20年近くも遅れたにのはそれなりの事情がありますが、ここでは省きます。

もともと「臨床心理士」(財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定している資格)は、ゆくゆくは国家資格にするための過渡期的なものでした。ただ学部卒でも取得できる法案だったために、「臨床心理士」の養成をしている「指定大学院」の人たちと、認定協会の人たちが反対して難航していました。利権とメンツから政治的なかけひきが始まるのはどの世界にもあることかもしれませんが、今後にしこりを残さないことを願っています。そのしわ寄せは、次代を担う若い人たちに行くからです。

「指定大学院」の仕組みは、臨床心理学を学びたくても実験心理学しか学べなかった、日本の心理学教育のあり方を変えるきっかけにはなったと思います。ただ、妙なエリート意識を持つ人を増やしてしまった弊害がありました。これは「臨床心理士」の産みの親とも言える、河合隼雄先生もこぼしていらっしゃったくらいです。私は大学院で授業をすることはありますが、指定大学院はおろか、大学院も出ていません。その現場叩き上げゆえの妙なプライドがあるのかもしれませんが、自分の臨床経験で裏づけられていないことを、臨床の専門家として話すのは良くないと感じます。

今回の法案成立には、「心理学ワールド」(心理学諸学会連合)が賛成していました。実験心理学の人たちも賛成、ということです。心理臨床学会では、養成システムにアメリカのサイエンティスト・プラクティショナー・モデルを採用しよう、と言っている人もいます。これはざっくり言えば、実験心理学の研究ができるようになった人に、臨床心理学の訓練をしようということです。これは本家のアメリカでも賛否両論があるし、私自身はムダがあまりにも大きいと感じます。条件の統制や統計処理など、客観的な視点を持つことは臨床にも必要だとは思いますが、何年間も費やすことではないでしょう。実験は実験、臨床は臨床です。結局は実験心理学の人たちも味方につけるための、ご都合主義のように思います。

臨床心理士も増えて来て、資格さえあれば仕事にありつけるという時代ではありません。あと何年かすれば、臨床心理士たちの多くが公認心理師を受験するようになるでしょう。公認心理師は持っているけど、臨床心理士は持っていないという人たちも参入して来るでしょう。他にも産業カウンセラーや、カルチャースクールや通信教育の作った資格もあるし、それで開業している人たちもいます。資格はスタートラインに立つためのものでしかありませんが、そこで色々な動きが生じて来るでしょう。でも結局は来談者の、職場の、世の中の、役に立つこと。その原点を大事にしていくしかないと思います。
posted by nori at 08:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 臨床心理士
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