
岩手県立美術館で開かれている、「野口久光 シネマグラフィックス展」を見てきました。野口久光(1909〜1994)さんは、1933年に東京美術学校(いまの芸大)を卒業して、1000点を超える映画のポスターを描いたとされています。中でも有名なのはトリュフォー監督の「大人は判ってくれない」で、トリュフォーが「素晴らしいポスターを描いてくれた」と大感激して、野口さんから送られた原画を終生、大切に飾っていたそうです。
美術館にはおびただしいポスター、俳優たちのポートレイト、映画に関するノートなども展示されていましたが、野口さんの映画に対する愛情が感じられるような、心あたたまる展覧会でした。ポスターはただ絵を描けば良いのではなくて、うたい文句、今風に言えばコピーもおそらくは野口さん自身が考えられたのだと思います。映画が大好きでのめりこんで見るような人じゃないと、作れないようなポスターばかりでした。レタリングの見事なことも特筆もので、私的な映画ノートも印刷原稿のような見事なレタリングが施されていました。
半世紀も年上の方を「野口さん」と気安く呼んでしまうのは、若い頃に買い求めたジャズのアルバムのライナーノートや、雑誌の新譜レビューで健筆をふるっていらっしゃったからです。ルイ・アームストロングから前衛的なフリージャズまで、その守備範囲の広さとジャズへの愛情は、本当に敬服に値するものでした。どんなレコードでも、良いところを見つけてほめるのが上手な人でした。偉そうに批評するよりはただの愛好家として、いちファンと同じ目線で書いているような文章からは、「さん」づけしたくなるような親しみを感じていました。同展は8月21日まで、開かれています。