
ベートーベンは「ギターは小さなオーケストラだ」と言ったとか。ピアノなみの複雑な表現ができるのですが、単音では弦楽器や管楽器と渡り合うことができません。ジャズではひたすらコードをジャカジャカ弾く、伴奏楽器に甘んじていました。音量の壁を超えて管楽器のようにソロをとるには、いわゆるエレキ、エレクトリック・ギターの登場を待たなくてはなりませんでした。
エレキでソロを取れるようになってからも、ギタリストは「コードを弾かなきゃ」という呪縛から逃れることができませんでした。何しろボリュームを絞ればコードを弾けるんだし、ただボーっとしているわけにはいかない。ギター弾は背中を丸めて、ピアノとかぶらないように伴奏をつけて、ちゃんと働いているところを見せてきました。花形楽器のサックスやトランペットで、日陰者というか、なんだか暗いのです。
ところがブルーノートから彗星のように登場したグラント・グリーン(Grant Green 1935〜1978)は、コードを全く弾かないのです。自分の出番になったらソロを弾いて、あとはお休み。もともとR&B(リズム・アンド・ブルーズ)を演奏していたこともあって、グリーン自身も「ジャズ・ギタリスト」だとは考えていなかったそうです。私は「ジャズ期」しか聴いたことがないですが、ファンキー路線に転じてビリー・ジョエルの「素顔のままで」なんかも演って、車の中で心臓発作を起こして亡くなりました。おクスリで命を縮めたようです。
さて彼のプレイはと言えば粘っこい快楽というか、「もう、えらいコテコテなんやで」と、なぜか関西弁で言いたくなるノリが特徴です。同じフレーズをこれでもかと繰り返すので、ちょっと聴いた感じでは技巧的に優れている印象はまるでないけれど、力強いピッキングでグイグイ弾きまくるのは、コピーしようと思ってできるもんじゃない。実は大変なテクニシャンだったことが分かります。ジャズマニアの間では快楽路線のために過小評価されているグリーンですが、シリアスなアルバムとして、Idle Moments(Blue Note 1963)を挙げておきます。
