タイトルになっている「ロケットマン」は、1972年に発売されたアルバム、「ホンキー・シャトー」に収められています。エルトンと言えば1970年の「僕の歌は君の歌:(Your Song)ですが、このアルバムから「ピアニストを撃つな」、「黄昏のレンガ路」、「カリブ」、1975年の「キャプテン・ファンタスティック」までがサウンド面での黄金時代なのかもしれません。デビューアルバムから前作の「マッド・マン」までは、スタジオミュージシャンとポール・バックマスターの弦楽アレンジでしたが、「ホンキー・シャトー」からは腕利きのギター、ベース、ドラムスのメンバーが定着してバンドになります。

このアルバムからシングルカットされたのは「ホンキーキャット」と「ロケットマン」ですが、他にも「モナリサ・アンド・マッド・ハッター」、「メロウ」、「サルベーション」などの佳曲が詰まっています。
ギターのデイヴィ・ジョンストンはフォーク畑の人で、エレクトリックギターを持っても速弾きとかはまるでしません。アコースティック・ギターできれいなコード・ストロークを響かせたり、マンドリンやバンジョー、スチールギター、シタールなどの各種弦楽器を器用に弾きこなします。ベースのディー・マレーは亡くなってしまいましたが、ツボを押さえた端正なベースラインとスムーズなフィンガリングで、レオン・ラッセルから「いつでも来てくれ」と言われていたスタジオミュージシャンでした。ドラムスのナイジェル・オルソンはユーライア・ヒープにいた人ですが、実はポップ・ヴォーカリスト志望で、そっちのソロアルバムも何枚か作っています。彼らは演奏するだけではく、息の合ったコーラスもつけていました。
その他にもパーカッションのレイ・パーカーJrや、ヴァイオリンのジャン・リュック・ポンティ(ホンキー・シャトー)、ARPシンセサイザーでデヴィッド・ヘンツェル(黄昏のレンガ路、キャプテン・ファンタスティック)、タワー・オブ・パワーのホーンセクション(カリブ)などが、彩を添えていました。
エルトン・ジョンはソング・ライター、シンガー、ピアニストである他に、バイセクシャル、奇抜なファッション、サッカーチームなどの浪費、薬物依存、ダイアナ妃との友情、エイズ支援など、さまざまな面が知られています。でもブラック・ミュージックの厖大なコレクションをもっているとか、キング・クリムゾンのオーディションを受けたことがあるとか、「音」に相当なこだわりをもって取り組んできたことは、あまり知られていないように思います。映画を見て興味を持たれた方は、ぜひ70年代のアルバムを購入して、聴いてみられてはいかがでしょうか。