
表のストーリーとしては、「オレ、何をやってるんだろう」から「夢の実現」をなしとげた、そういう話です。中年期の危機と言ってもよいかもしれません。でもそれはあくまでも「表」で、「裏」が透けて見えてくるのが、この映画の魅力ではないかと思います。
その「裏」とは、中年を過ぎて感じるようになる、加害者意識でしょうか。仕事にかまけて、娘や妻、母親に淋しい思いをさせてきました。機嫌の悪いのをまき散らしていたし。会社の指示とは言え、工場をたたんでリストラを断行しました。仕方のないことだったかもしれませんが、物づくりにかけてきた社員たちへの共感はありませんでした。そして親友が店を予約してくれていたのに、東京にトンボ返りして、飲みに行きませんでした。もし誘いを断らなかったらゆっくり話もできたし、もしかしたら事故にも遭わなくて済んだのかもしれない。
そんな加害者意識、そして贖罪の気持ちが生まれていても、不思議ではないと思うような展開でした。同期で入社した運転士、宮田(三浦貴大)に「エリート」という言葉を使われたとき、肇は「オレはエリートなんかじゃない。自分のことしか考えない人間が、エリートのわけがない」と返していましたが、肇はエリートの意味を分かっていたはずなのに、いつの間にかずれていたことに、気づいたのでしょう。乗客にも宮田にも、家族にも優しく接するようになっていました。大会社の重役候補のときはエリートではなかったけど、運転士になってからエリートになった、そんな成長の物語だと感じました。