心理「療法」と言うと、医療、あるいは医学的な行為を連想する人が多いと思います。ところが「心理療法」は、「薬物療法」や「手術療法」、「放射線療法」などの医療とは根本的に異なっているのです。
言うまでもなく医療は医学モデルにしたがって、組み立てられています。医学モデルとは疾病の原因を特定して、その原因を取り除いたり、原因が引き起こしている症状を抑える、ということです。その手段として、薬物や手術や放射線が用いられます。
また医学モデルは自然科学の成立には不可欠な、現象の再現性に基づいています。物理学や化学ほど厳密なものではないにしても、同じような状態の人に、同じ治療を施せば、同じような結果が生まれるという前提があるわけです。
ところが心理療法をこのような医学モデルでとらえようとすると、無理が出てきます。人のこころに関わることで原因を特定したり、現象の再現性にもとづいた介入ができるかと言われれば、それはかなり困難なことであると言わざるを得ません、
話は横道にそれますが、精神分析の祖であるフロイトは医学モデルで理論や技法を組み立てていました。近代科学が一気に花開いた時代ですから、無理もないことだと思います。そのフロイトの症例として有名な「狼男」が、晩年の自伝でこんなことを述べているそうです。「私はフロイトが言った解釈なんか嘘っぱちだと思っていたし、全く信じていなかった。でもフロイトは天才だった。私の人生に可能性を与えてくれた」と。フロイトが施した医学モデルによる治療ではなく、他の「どこか」や「何か」が狼男に通じたのでしょう。
心理療法は「原因を取り除く」医学モデルではなく、新しい認知や行動のパターンを身につけるように援助する、教育モデルによっていると言えるでしょう。そこを確認しておかないと、臨床心理学の独自性を世間に理解してもらえないと考えます。
2009年03月09日
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