2009年07月15日

縁側のない家

 縁側のない家が、増えました。縁側に出ていると、近所の人が通りがかって声をかけたりします。「いや、好い天気ですね」「まあお茶でも一杯どうですか……」と、交流が始まったりします。縁側は家の中には違いないのですが、外に対して開かれている空間です。

 東北のような寒冷地では特にそうでしょうが、空調をしようとすると縁側は厄介な存在です。掃き出しの大きな窓ガラスは、断熱性能に劣ります。どだい、狭い家だと縁側に割くスペースがありません。かくして「高気密・高断熱」をうたった、お城のような外壁に小さな窓がついた、縁側のない家ばかりになってしまいました。かく言う私とて、そんな家に住んでおります。

 縁側のない家は、世間に対して開かれていません。裏庭から気軽に声をかけられないし、それなりの明確な用件がなければ訪れることができません。そして門番がいて、執事も召使もいます。ただしこれらは電気仕掛けではありまして、インターフォンに掃除機に、洗濯機に、パソコンに……と数えていけば、相当なことをやってくれるのです。さらにまた電気仕掛けではあるけれど、家の中でコンサートや芝居まで見物できるので、退屈もしないですみます。こんな優雅な生活は、昔であれば王侯貴族の特権だったでしょう。

 さらに言えば、私たちは王侯貴族の孤独も手に入れることになりました。地域の中で交流したり、助け合うことはうんと減ってきています。他人を必要としない便利な生活に慣れてしまって、でも引き換えに何を失ったか気づいていないだけなのです。「ひきこもり」は、決して他人ごとではありません。
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