ギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、田舎町の小さな食料品店で働いています。7年前に父親が突然に自殺してから、母親は過食症になって身動きも不自由なくらいに太っています。家には二人の姉妹と、障害のある弟のアーニーもいます。ギルバートは一家の大黒柱でもあり、アーニーの世話役でもあります。
ところでアメリカの精神科医の間では、成人しても親と同居しているのは、あまり健康であるとは受け取られないようです。むしろ十分な精神発達を遂げていないことの、ひとつのサインとして扱われます。日本人はギルバートを「孝行息子」と見るかもしれませんが、アメリカ人はむしろ奇異な生き方をしているように見ると思います。
見たところ、アーニーは知的障害を伴う自閉症として描かれています(レオナルド・ディカプリオの好演は見もの)。18歳の誕生日を迎えると言うのに、いくら注意されても給水塔に登って警察を出動させてしまうし、「自分で身体を洗うんだよ」と言われれば一晩中バスタブの中で身体を洗っています。ギルバートにとっては可愛い弟でもあるけれど、頭痛のタネでもあります。
アーニーは実に手がかかる弟なので仕方がないことかもしれませんが、ギルバートは自分のことは二の次で、家族の世話に明け暮れています。人妻の不倫相手をするのは恋や気晴らしというよりは、これまたお世話をしているのかもしれません。弟にだけではなく、母親にも、そして地下室で首を吊った父親にも、しばられているように見えます。人の世話をすることでしか自分の存在を実感できないので、生き生きとした感情の動きがないし、自分のために生きることなど思いもよらないようでした。でも車の故障で足止めをくった少女のベティと出会い、母親の最期を看取ったことで、ギルバートは解放されていきます。
ところでこの作品では、人の死があっけなく唐突にやってきます。人妻のダンナにも、ギルバートの父親にも、母親にも。闘病も遺言もありません。悲しいけれど、淡々として、ほのぼのとした、不思議な感じの映画です。
2009年09月14日
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