2010年02月23日

扉をたたく人

 大学教授のウォルター・ヴェイル(リチャード・ジェンキンス)は、妻を亡くしてから20年間も同じ授業をくり返していました。研究もほとんどせず、学生を熱心に指導するわけでもありません。クラシックのピアニストだった妻の影を追っているのか、ピアノのレッスンを何度か受けてみたりしていました。でも本気でピアノをマスターする気持は、ないようです。

 そんなウォルターが共同執筆者になっていたばかりに、ニューヨークで開かれた学会に渋々出張することになりました。大学にはウォルターを支えてくれる同僚がいたり、共同執筆者に名前を載せてくれる人もいたので、人柄は好かれているようです。でも専門用語で表すなら、遷延化した悲嘆反応とか、慢性的なうつ状態と言うことになるのでしょう。

 久しぶりにニューヨークの自宅に戻ってみたら、友人にだまされて住んでいたカップルがいました。シリアから来たパーカッション奏者のタレクと、セネガルから来た恋人のゼイナブでした。不法滞在が見つかって窮地に陥った二人を、何とか助けようとウォルターは奔走します。原題は「Visitor」(訪問者)ですが、ウォルターは「開かない扉をたたく人」になっていきます。

 訪問者たちとの出会いだけではなく、アフリカのリズムとジャンベ(西アフリカで使われる太鼓)も、ウォルターを元気にしていったのかもしれません。タレクは「クラシック音楽は4拍子が基本だけど、アフリカのビートは3拍子が基本。先生は頭は良いけど、それはドラムをたたくにはじゃまなんだ、考えないで」と手ほどきします。そう言えばミルフォード・グレイブスがインタビューで、「ジャズのドラマーは、心臓の鼓動であるスリービートをたたけなくてはダメだ」と話していました。アフリカンビートが「心臓の鼓動」なのは、わかる気がします。強迫的に頭で考えることから抜け出して、のびのびと身体で感じることも、大切なことかもしれません。
posted by nori at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画に見るこころ
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