2010年09月08日

虐待の傷跡

中学校や高校で、解離性の障害が疑われるケースに出会うことがあります。生徒は「友だちを叩いたそうだけど、その場面を全く憶えていないので、反省のしようもない」とか、「知らない間にリストカットをしていたなどと」言います。あるいは先生が「その場その場で都合の良いことを言うので、友だちとトラブルが絶えない」とか、「場面によって顔つきががらりと違う」などと相談してきます。

ご本人はいたってまじめに生活しているのですが、本当に記憶にないので困ってしまうし、不安にもなります。たとえば「ゴメンね私は忘れっぽいからとボケて、前に何を言ったか教えてもらうようにしよう」などと、校内の適応が良くなるように助言をすることにしています。学校は治療機関ではないので、心理療法によって根本的な解決を図るようなことはしません。

彼らは精神科を受診すれば、解離性同一性障害と診断される可能性があります。でも親が病院に連れて行くことは、期待でないケースがほとんどです。まず過去に本人を虐待していたとか、あるいは現在でも虐待している可能性が高い。経済的に苦しいということも、ままあります。生徒が虐待されているとしたら、親に受診を勧めるよりも、児童相談所に通報する方が先になります。

虐待されて解離を起こしている生徒、おそらくは自分も虐待されてきて子どもを虐待してきた親、そしてその一家が置かれている厳しい環境などを思うと、彼らに対して何ができるのかという気持にもなります。地域で人と人のつながりが希薄になっていることが、虐待が増えている一因でしょう。古今亭志ん生が米や醤油や電気代を融通しあって生きていた、「なめくじ長屋」を語っていますが、いくら貧しくても虐待などはなかったと思います。虐待は人ごとではなく、心のゆとりをなくして弱い者にしわ寄せをしていないか、ひとりひとりが考えるべき問題だと思います。
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