八戸市民病院の臨床心理士が、患者の女子高生にキスなどをしたとして、逮捕される事件がありました。同業者の間では「とても迷惑な話だ」とか、「事件を知ってからも診療させた病院も、いったい何を考えているんだろう」とか、まあそんな反応が一般的なんだろうと思います。でも私は「とんでもない人」が「とんでもないこと」をした、つまり自分とは一切関係のないこととして済ませてしまうのも、どうかと思うのです。むしろ自分自身のこととして、とらえ直す必要があるのではないでしょうか。
報道通りであるとすれば、その臨床心理士は自分の欲求を満たすために、患者を利用したということになります。たとえばフロム・ライヒマンは「積極的心理療法」の中で、そういうことが起きないように治療者は自分自身の欲求をプライベートな生活で満足させておくべきだと述べています。それは性欲に限る話ではなくて、居眠りしないように十分寝ておくことなども含まれます。私たちはそういった努力を、ふだんからしているでしょうか?
また治療が密室での秘め事みたいなってしまうと、治療者が「二人だけの関係」に耽溺してゆく可能性が高くなります。病院の面接室は、完全な密室だったのでしょうか? プライバシーを守るためにはある程度の密室性は必要ですが、ちょっとした外の物音や磨りガラスごしの人影などは、あった方が良いと思います。また職場での症例検討会や、学会や研修会で症例の報告をすることも、心理的な密室性を減らすことにつながります。不祥事を起こす治療者が、学会や研修会に出てこない人だった、と言う話は時折耳にします。
また症例報告を聞くと、転移性の恋愛感情を向けられたまま、それを面接の中で取り上げないでにこっそり楽しんでしまう人が見受けられます。特定の患者を特別扱いしたり、何が何でも学会発表をしたりする人も、自己愛を満たすために患者を利用していることになります。たとえば教師が本人の意志には関係なく難関校に進学させようと躍起になるとか、まあこういうことは世間にありふれてはいるのですが、臨床心理学に関わる者は心しなくてはなりません。
2010年09月11日
この記事へのコメント
まさに仰るとおりだと思います。
Posted by ふみ at 2010年10月29日 10:33
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