「ヒゲの殿下」寛仁親王が亡くなられました。「アルコール依存症で入院」されていたとラジオで聞いて、ちょっと調べてみたのですが、宮内庁の反対を押し切って公言されていたようです。講演では「アルコール依存症の寛仁親王です」と自己紹介して、「大学時代からずっと酒を飲んで依存症だったわけで、最近になって、今さらそうなったと取られるのは心外だ」、「皇室にも仲間がいるのかと、患者たちが大喜びしている」と痛快にカミングアウトされていたようです。
アルコール依存症は、古くはアルコール中毒、略してアル中と呼ばれていました。この「アル中」につきまとう侮蔑的なイメージが、この病気をさらに悪いものにして来たと言えます。ご本人には「まさかアル中になったのでは……」と、病気を認めることへの抵抗が強くなります。家族は「人格的にだらしがないから、仕事もしないで好きな酒ばかり飲んでいる」という、間違った理解に基づいて対応します。もっともご本人も「俺の金で好きな酒を飲んで何が悪い」とか、開き直ってしまったりすることもあるので、仕方のない麺もあるのですが。
長年の飲酒によって体質が変わってしまい、飲酒欲求が病的に強くなってしまうので、飲酒をコントロールできなくなるのがアルコール依存症の実態です。糖尿病になってしまったら、病気はもう治りませんが、生活を変えたり治療を受けたりすることで、人並みの生活を送ることができます。それと同じく、いったんアルコール依存症になってしまったら、飲酒をコントロールすることはできません。でも一滴も飲まないでいれば、人並みの生活ができます。
ただし断酒を続けることは、並大抵のことではありません。精神科に勤めていた時の経験では、最初の1年が特にきついようです。とにかく自助グループに欠かさず参加をして、仲間と励まし合って「飲まない日」を継続していくのが、回復への道のりになります。治療プログラムをもっている病院では、入院中から断酒会やAAに参加して、自助グループにつないでいきます。でも宮内庁病院に断酒会があるとか、宮様が市井の自助グループに参加するとかはちと考えにくいので、寛仁親王殿下は本当に必要な支援を受けることができなかったのではないかと思います。
アルコール依存症は「飲酒をコントロールできなくなる病気」であって、「飲みたい酒を飲んでいる」のでも、「酒に逃げている」のでもありません。正しい理解が広まることを願っています。
2012年06月10日
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