2012年10月16日

30年ぶりのサイコドラマ

 先日オーストラリアからスー・ダニエル先生を迎えての、サイコドラマのワークショップが盛岡市でありました。今回は東日本大震災の支援に関連した、喪失と外傷に焦点をあてたものでした。参加者のほとんどはサイコドラマを経験したことのない人たちでしたが、必要なガイダンスを入れながら、ウォーミングアップからドラマ、シェアリングまで、暖かい雰囲気の中でスムーズに進んで行きました。スー先生がconnection(つながり)をキーワードにしていたことからも、セラピストとしての腕の確かさや、被災した人の心のありようをつかんでいることがうかがわれました。

 サイコドラマとはオーストリアからアメリカに移住した精神科医、ヤコブ・モレノによって始められた集団心理療法の一つです。30年前の記憶をたぐっているので間違いかもしれませんが、劇団員の夫婦にけんかを再現させてから、役割交代(夫が妻の役、妻が夫の役)をして演じさせたら、夫婦仲が良くなったというのが始まりだったように思います。主役のストーリーをそのまま演じるのではなく、現実とは違う展開をすることも、たとえば亡くなった人に登場してもらうことも、サイコドラマでは自由にできます。そして主役、主役の家族などの登場人物になった人、家具や風景になった人、観客でいた人、それぞれが感じたことを話して(シェアリング)終わります。

 居酒屋での打ち上げで、日本酒でサンマの塩焼きなどをぱくついているスー先生に、「もう30年も昔の話ですが、東京サイコドラマ研究会のメンバーだったことがあるんです。ザーカ・モレノさんが日本でワークショップをした時には、参加しました。でも当時は私も若くて内気だったこともあって、精神分析を学ぼうと思いました。それでサイコドラマは、やめてしまったんです」と話しました。「あらー、そうだったの。ザーカは生きているのよ。そう、生きてるの!95歳で、アメリカに住んでいて、この間は新しい本を書いて出したのよ」とスー先生。ザーカさんはヤコブ・モレノの奥さんで、高名なサイコドラマティストでした。私の印象に残っているのは、主役に直面化させる揺るぎない姿勢と、とても温かくて大らかな雰囲気でした。私がサイコドラマの監督をすることはないでしょうが、ザーカさんのセラピストとしてのありようには近づきたいと思います。それにしても95歳で本を出されるとは、日野原先生級の長寿には驚きました。

 私がサイコドラマをやめたのは、内気で集団が苦手だった(当時はね)というのもたしかにあったのですが、それは二つの理由のひとつです。もうひとつの理由は、自分には「心を言葉にする力がない」と感じたのです。研究会のメンバーには臨床経験の長い人が多かったこともあって、これはもう圧倒的に見せつけられました。このままサイコドラマという技法を学んでも、立ち行かなくなるだろうと感じたのです。まずは言葉にする力を身につけたいと思いました。それは正しい判断だったように思いますが、さてどうでしょうか。
posted by nori at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理療法
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