2012年10月30日

遺族のケア

 10月27日に岩手県臨床心理士会の主催で、「こころに寄りそう―大切な人を失ったあなたに―」と題された遺族ケアのシンポジウムが開かれました。国立精神・神経センター精神保健研究所の中島聡美先生の基調講演の後で、県内各地で支援にあたっている現場の方々による発表、意見交換となりました。

 中島先生は悲嘆反応に関してボウルビィの愛着と喪失の理論をベースにして、とても分りやすく講義をしてくださいました。悲嘆は大切な人を失った人に起きる、自然で正常な反応です。抑うつや怒り、自責感などの情緒面だけでなく、睡眠障害などの身体症状や、ひきこもりや過活動などの行動面にも現われます。悲嘆から回復すると、故人を苦しまずに思い出すことができて、再び生活に向きあうことができるようになります。そうなるためには、悲しみに向き合うこと、人づきあいしながら日常生活を送ることの両方が必要なのだそうです。

 しかし複雑性悲嘆と呼ばれる状態になると、急性期の反応が何年間も長期にわたって続いたり、社会的な孤立が長引いたりします。しかもご本人は、その状態に対して違和感を持つことなくひきこもった生活を続けて、援助や治療を受けようとはしません。とてもデリケートになっていて、アプローチしてくる人には容易に心を開こうとしません。

 人がひとり亡くなると、6人が「大切な人を失った」と感じるそうです。岩手県だけでも、3万6千人の方々に悲嘆が訪れていることになります。悲嘆が無理なく進むように、そして複雑性悲嘆の方々に手がさしのべられるように、支援が必要です。「復興」のスローガンのもと、「いつまでも悲しんでいないで、前を向いて」いくことを強制されてしまうと、悲嘆が重くなっていくと思われます。やはり悲しいことは十分に悲しんでから、前に進めるものだと思います。
posted by nori at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 東日本大震災
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