2013年09月15日

まんがサイコセラピーのお話

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原題は Couchi Ficotion で、カウチとは精神分析で使う寝椅子のことです。この本は精神分析的心理療法のプロセスを、マンガで伝えようとする試みです。盗癖に悩む弁護士のジェイムズは、中年女性のセラピストのパットを訪ねました。著者の日本語版へのあとがきには「心理療法がうまくいくにはその過程において、クライエントは四つの主な領域で作業をする必要がある。関係性(筆者注;セラピストと関係を築くこと)、自分を物語ること、自分を観察すること、そして、新しく学ぶこと、である」とありますが、ジェイムズはパットの助けを借りてその作業をやり遂げて、無事に終結を迎えました。

私の見方ですが、パットの心理療法の進め方は少々せっかちなように思います。また催眠の暗示を使ったり、感情表現のリストを見せたり、プロセス・シートを渡したり、多分に心理教育的なアプローチを含んでいます。そこには認知行動療法の影響が、あるように思います。

転移の扱い方が、治療関係を足がかりにしていないことも、特徴的だと思いました。これは私の見方ですが、ジェイムズには両親の延長物として扱われてきた歴史があり、両親との関係性を再演してセッションで良い子になって、パットを理想化していきます。でも解釈が「力関係の不均衡を空想の中で調整している」という、弁護士とセラピストの現実の違いに帰着していて、クライエントの過去をスルーしているのはちょっと表層的な印象を受けてしまいます。こんな感想を、仲間とああでもないこうでもないと言い合うには、恰好の素材だと思います。

パットの同業者?として気になるのは、おそらくは独身の女性が自宅のアパートで開業するのは、怖くないのかということです。イギリスでは自宅開業が多いのですが、どんな人が来るかわかりません。一人暮らしとなると暴力を振るわれたり、ストーカーのように訪問や電話をされたりという可能性もゼロではないので、大丈夫かなと。もしかしたら紹介者がある人だけに、限っているのかもしれません。あと面接室にかかっている絵が、セラピーの状況を象徴的に示しているのが、面白かったです。

まんが サイコセラピーのお話 物語:フィリッパ・ペリー 絵:ジュンコ・グラート あとがき:アンドリュー・サミュエルズ 
監訳:鈴木龍 金剛出版 2013年発行
posted by nori at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 臨床心理学の本棚
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