
書店に行ったら、見つけることができませんでした。店員さんに調べてもらったら、精神医学や精神分析のコーナーではなくて、落語のコーナーに置いてありました。買い求めて読んで見ると、それは象徴的な出来事のように思いました。著者は精神分析を語っているのではなくて、落語を語っているのですから。
著者は精神分析医ですが、談志に心酔して自分でも高座に上がるほどの落語好き。私も落語は好きな方で、よく聞いてきました。地方に住んでいるとなかなか寄席には行けませんが、上京して時間があるとのぞいてみます。あるいはCDで、YouTubeで。やはり志ん生、金原亭馬生、志ん朝の親子が中心でしょうか。四代目の柳好(三代目はいけません)なども、とぼけた味わいが好きですね。談志は芸の良し悪し以前に、あの挑戦的な姿勢がどうも苦手で……。
古典落語の代表的なネタを取り上げていて、とても面白く読める「落語の」本です。でもこれらのネタの通奏低音のように流れている、「貧乏」とか「イキ」とか「見栄」なども、掘り下げて欲しかったような気もします。
それにしても藤山先生がこんなにあちこちに物を置き忘れたり、捜し物に明け暮れている人だとは、知りませんでした。これでは生きて行くのが、大変です。妻にそのくだりを見せたのですが……。
「ホレ、俺よりもヒドイよ、この人。これでもトーダイの医学部を出て、国際精神分析協会の資格を持ってる、数少ない先生なんだから」
「そうかな……。やってることは、まあ、似たようなもんじゃないの?」
お後がよろしいようで……。