ジャズ・ファンの中でもキース・ティペット名義のアルバムを持っている人は、よほどの剛の者と言うか、痴れ者と言うか、まあその類の人なんでしょう。私は一枚も持っておりません。せいぜいプログレッシブ・ロック(なつかし〜)のキング・クリムゾンに参加した作品です。有名なのは「ポセイドンの目覚め」の「キャット・フード」とか、「アイランド」の表題曲のソロとか、でしょうか。追悼のために、学生時代から聴いていなかった「リザード」を引っ張り出して聴いてみました。ずっとラックに収まって日の目を見なかったのは、ひとえにゴードン・ハスケルのヴォーカルが気にくわなかったからです。一曲だけイエスのジョン・アンダーソンが歌っていて、これは素晴らしい。他の曲もジョンが歌っていれば……なんて思っていました。

キング・クリムゾンはギタリストのロバート・フリップを核に今も活動を続けているようですが、私は「レッド」まででフォローを止めていました。やっぱり「レッド」が一番好きかもしれません。デビューアルバムの「クリムゾン・キングの宮殿」はビートルズの「アビー・ロード」を抜いたとかで、ドデカ顔のジャケットとともに超有名。そのあとは「アイランド」、「太陽と戦慄」……と傑作が目白押しで、「リザード」は地味なアルバムです。でもあらためて聴いてみると、なかなかに良いなあと思うのです。若いときはロックしか聴いていなかったので散漫に感じていましたが、スリリングなインタープレイはさすがに即興演奏を得意としたグループならでは、です。キース・ティペットのプレイも切れ込みが鋭く、さすがにフリー・ジャズとロックの間を行き来した人らしい、ツボにはまった演奏を聴かせてくれます。