2020年06月23日

リザード

パソコンやスマートフォンのブラウザを開くと、勝手に「興味のありそうなこと」が表示される時代になりました。いきなり「イギリスのジャズ・ピアニスト キース・ティペット氏逝去」などと出てくると、ちょっとびっくりします。彼が心臓発作で72歳で亡くなったことに、ではなくて、あまりにもニッチな「興味のありそうなこと」を突いてきたことに、です。

ジャズ・ファンの中でもキース・ティペット名義のアルバムを持っている人は、よほどの剛の者と言うか、痴れ者と言うか、まあその類の人なんでしょう。私は一枚も持っておりません。せいぜいプログレッシブ・ロック(なつかし〜)のキング・クリムゾンに参加した作品です。有名なのは「ポセイドンの目覚め」の「キャット・フード」とか、「アイランド」の表題曲のソロとか、でしょうか。追悼のために、学生時代から聴いていなかった「リザード」を引っ張り出して聴いてみました。ずっとラックに収まって日の目を見なかったのは、ひとえにゴードン・ハスケルのヴォーカルが気にくわなかったからです。一曲だけイエスのジョン・アンダーソンが歌っていて、これは素晴らしい。他の曲もジョンが歌っていれば……なんて思っていました。

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キング・クリムゾンはギタリストのロバート・フリップを核に今も活動を続けているようですが、私は「レッド」まででフォローを止めていました。やっぱり「レッド」が一番好きかもしれません。デビューアルバムの「クリムゾン・キングの宮殿」はビートルズの「アビー・ロード」を抜いたとかで、ドデカ顔のジャケットとともに超有名。そのあとは「アイランド」、「太陽と戦慄」……と傑作が目白押しで、「リザード」は地味なアルバムです。でもあらためて聴いてみると、なかなかに良いなあと思うのです。若いときはロックしか聴いていなかったので散漫に感じていましたが、スリリングなインタープレイはさすがに即興演奏を得意としたグループならでは、です。キース・ティペットのプレイも切れ込みが鋭く、さすがにフリー・ジャズとロックの間を行き来した人らしい、ツボにはまった演奏を聴かせてくれます。

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2019年08月23日

ロケットマン

クイーンのフレディ・マーキュリーの生き方を描いた映画、「ボヘミアン・ラプソディ」をご覧になった方も多いと思います。そしてエルトン・ジョンの「ロケット・マン」が、今日からロードショーとなっています。中学生の頃はエルトン・ジョンのレコードに夢中になっていたので見には行きたいのですが、映画館の音が大き過ぎてしんどいときもあるので、どうしようか迷っています。

タイトルになっている「ロケットマン」は、1972年に発売されたアルバム、「ホンキー・シャトー」に収められています。エルトンと言えば1970年の「僕の歌は君の歌:(Your Song)ですが、このアルバムから「ピアニストを撃つな」、「黄昏のレンガ路」、「カリブ」、1975年の「キャプテン・ファンタスティック」までがサウンド面での黄金時代なのかもしれません。デビューアルバムから前作の「マッド・マン」までは、スタジオミュージシャンとポール・バックマスターの弦楽アレンジでしたが、「ホンキー・シャトー」からは腕利きのギター、ベース、ドラムスのメンバーが定着してバンドになります。

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このアルバムからシングルカットされたのは「ホンキーキャット」と「ロケットマン」ですが、他にも「モナリサ・アンド・マッド・ハッター」、「メロウ」、「サルベーション」などの佳曲が詰まっています。

ギターのデイヴィ・ジョンストンはフォーク畑の人で、エレクトリックギターを持っても速弾きとかはまるでしません。アコースティック・ギターできれいなコード・ストロークを響かせたり、マンドリンやバンジョー、スチールギター、シタールなどの各種弦楽器を器用に弾きこなします。ベースのディー・マレーは亡くなってしまいましたが、ツボを押さえた端正なベースラインとスムーズなフィンガリングで、レオン・ラッセルから「いつでも来てくれ」と言われていたスタジオミュージシャンでした。ドラムスのナイジェル・オルソンはユーライア・ヒープにいた人ですが、実はポップ・ヴォーカリスト志望で、そっちのソロアルバムも何枚か作っています。彼らは演奏するだけではく、息の合ったコーラスもつけていました。

その他にもパーカッションのレイ・パーカーJrや、ヴァイオリンのジャン・リュック・ポンティ(ホンキー・シャトー)、ARPシンセサイザーでデヴィッド・ヘンツェル(黄昏のレンガ路、キャプテン・ファンタスティック)、タワー・オブ・パワーのホーンセクション(カリブ)などが、彩を添えていました。

エルトン・ジョンはソング・ライター、シンガー、ピアニストである他に、バイセクシャル、奇抜なファッション、サッカーチームなどの浪費、薬物依存、ダイアナ妃との友情、エイズ支援など、さまざまな面が知られています。でもブラック・ミュージックの厖大なコレクションをもっているとか、キング・クリムゾンのオーディションを受けたことがあるとか、「音」に相当なこだわりをもって取り組んできたことは、あまり知られていないように思います。映画を見て興味を持たれた方は、ぜひ70年代のアルバムを購入して、聴いてみられてはいかがでしょうか。
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2015年08月21日

The Yes Album / Yes

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イエスのベーシスト、クリス・スクワイアが6月27日、白血病で亡くなったそうです(享年67歳)。訃報欄に目を留めるようになるのは、トシを取った証拠でしょうか。ロック・ミュージシャンも高齢化でメタボになり、イエスでお肉たっぷりでないのはベジタリアンのスティーヴ・ハウひとりでしたが、白血病とは。ご冥福をお祈りします。

クリス・スクワイアはイエスのオリジナル・メンバーで、リーダーでした。ワガママな連中をなだめすかしてグループを維持する珍獣使いであるとともに、メンバーのしびれを切らせる遅刻魔でもありました。ときにはリード・ヴォーカルのジョン・アンダーソンよりも高い声でハモる、聖歌隊のOBでした。リッケンバッカーのトレブルを効かせたサウンド、リード・ベースとでも言いたくなるフレーズ、ファンキーなノリで、ベース奏者として超一流でした。

イエスと言えば「こわれもの」から「危機」のあたりが黄金期で、とくに「危機」が最高傑作だと言う人は多いと思いますが、このアルバムはギターにスティーヴ・ハウが加入してイエスのサウンドを確立した3枚目です。キーボードはハモンドオルガンにこだわって脱退することになった、トニー・ケイ。アコースティックピアノにエレクトリックピアノ、ミニムーグ(シンセサイザー)、メロトロン、オルガンを城壁のように築いたリック・ウェイクマンはインパクトがあったけど、イエス・サウンドに本質的な変化をもたらさなかったように思います。ちなみに歴代キーボード・プレイヤーで私が好きなのは、「リレイヤー」のパトリック・モラーツです。ドラムはビル・ブルーフォードで、小気味よく緊張感のあるドラミングがたまりません。
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2014年07月10日

Goodbye Yellow Brick Road / Elton John

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これは中学生のときに、お年玉で買ったLPレコードでした。2枚組で、たしか3,600円だったような気がします。昔のレコードは高かったので、めったに買えなかったことを憶えています。そのためくり返し、くり返して何度も聴いていました。いまは一枚のCDに収まって、値段もぐっとお安くなっています。私は車の中でも聴きたくなって、買いました。

このアルバムからシングルカットされたのは「土曜の夜はぼくの生きがい」、標題になっている「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」、エルトンは嫌いだったけどヒットした「ベニーとジェッツ」でした。そしてダイアナ妃が亡くなったときに、もともとマリリン・モンローに捧げた曲をダイアナ妃に変えて歌った「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」が一番知られることになりました。

私たちの年代はビートルズが解散していたし、フォークブームが全盛でした。中学生で洋楽を聴いていた人は、クラスに何人もいなかったと思います。エルトン・ジョンをリアルタイムで聴くことができたのは、幸せなことでした。彼はポップシンガーに見られることが多いのですが、クラシックの教育を受けていたり、黒人音楽が大好きだったり、あるいはキング・クリムゾンのオーディションを受けて落っこちたりと、幅広い音楽性をもっている人です。バーニー・トーピンの歌詞も、さまざまな世界を見せてくれます。またこの時期は腕っこきのミュージシャンたちが集まって、音作りもバンドのようなまとまりがありました。
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2014年02月16日

Private Collection / Jon Anderson

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ジョン・アンダーソンはプログレシッブ・ロックバンド、イエスのヴォーカリストでした。イエスは60年代の末から活動していたので、集合離散をくり返して今に至っています(……のかなあ?)。大病をしたり、音楽的な志向性でモメたり、あるいはカネのトラブルなんかで色々あって、ベースのクリス・スクワイアからクビになったりまた呼ばれたりで、ずいぶん忙しかったようです。

YouTubeには、ジョンがで弾き語りするライブの模様がけっこう出ています。複雑なアレンジと鉄壁のテクニックで成立していたはずのイエスの世界が、ジャカジャカとかき鳴らすギターと透明高音ヴォイスでだけでも再現されてしまうのが、実に愉快です。キーボード奏者のヴァンゲリス(炎のランナーなどの映画音楽でも有名)との出会いを物まねをまじえて面白おかしく話したりして、気さくで楽しい人柄も伝わって来ます。

「プライヴェート・コレクション」はそのヴァンゲリスと作ったアルバムで、私はたまたま中古盤でLPを手に入れました。曲はヴァンゲリス、詞はジョンが書いています。ロックではないけど美しい曲ぞろいでジョンの歌唱も冴えていて、完成度は驚くほど高いです。ほっと、癒されます。一曲でテナーをデヴィッド・サンボーンに泣かせるサックスソロが入っていますが、Dick Morrisseyというイギリス人です。
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2013年08月22日

Fragile / YES

「こわれもの」― 私ごときが、今さら何をか言わんやのイエスの大傑作です。
プログレ=プログレッシブ・ロックなる音楽も、今は昔なんでしょうね。このアルバムからキーボードにリック・ウェイクマンが加入して、イエスは黄金時代を迎えることになります。やはりビル・ブラッフォードの小気味よいドラムが好きです。後任のアラン・ホワイトはロックの叩き方としては正統なんだろうけど、バタバタとうるさいです。

イエスは複雑なアレンジ、変拍子、バカテクと三拍子そろったバンドでしたが、メロディアスで聴きやすいし、いま聴いても古い感じがしません(私だけ?)。1972年のリリースなので、もう40年も前のアルバムなんですね。高校生のときは何しろレコードが高かったので、ライブ三枚組の「イエスソングス」で済ませて持っていませんでした。それが廃盤セールでLPをあさっていて、見つけました。「見本盤」でした。


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見本盤っていうのは、音楽関係者に配るために作られたもので、非売品でした。真ん中のレーベルが真っ白で、印刷されていなかったりします。マスター・テープが新鮮な状態のファーストプレスなので、音は最高です。コレもお約束通りに、腰が抜けるほど鮮度の高い音がスピーカーから飛び出します。とくに見本盤だからと言ってプレミアがつくことはないので、アナログLPを聴く方は、見つけたら即買いすることをお勧めします。
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2013年05月26日

Elton John

エルトン・ジョンは御年66歳、サーの称号をもつシンガー・ソング・ライターであり、ピアニストです。バイ・セクシャルとしても知られています。70年代はド派手な衣装とメガネがトレードマークのロックンローラーでした。そしてこれは1970年にリリースされた、彼の2枚目のアルバムです。「僕の歌は君の歌」が大ヒットした出世作ですが、内省的で感傷的な曲が多く、ポール・バックマスターによる重厚なオーケストレーションもあって、風格の漂う音作りです。今ではこんな贅沢な録音は、あり得ないのかもしれません。

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エルトン・ジョンは本名ではなく、ソフトマシーンのサックス奏者エルトン・ディーンと、ブルースシンガーで俳優でもあったロング・ジョン・ボールドリーからもらった芸名です。ソロデビューする前はヒット曲のカバーを吹き込みながら、キング・クリムゾンのオーディションも受けていたとか。ロバート・フリップのお眼鏡にかなわなかったおかげで、その後の活躍があるのでしょうが、プログレっぽい音楽性はその後のアルバムでも見え隠れすることになります。
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