2024年09月14日

鏡の中の鏡

ドイツの「ECM」は、1969年に設立されたレコード会社です。Editions of Contemporary Musicの頭文字ですが、ジャズに軸足を置いて作品を発表してきました。キース・ジャレット(p)はECMを代表するアーティストで、他にもパット・メセニー(g)やチック・コリア(p)、ゲイリー・バートン(vib)、ジャック・デジョネット(ds)、チャーリー・ヘイデン(b)、ビル・フリゼール(g)など、数多くのミュージシャンがアルバムを残しています。近年は ECM New Series として、現代音楽やクラシック音楽の作品もリリースしています。

プロデュースをしているのは、もともとコントラバス奏者だったマンフレット・アイヒャーです。彼は自分の美意識に合う作品しか、リリースしません。ついアツくなって弾きまくり、「たまには演りたいように、やらせてくれ」と反抗したリッチー・バイラーク(p)は、追い出されてしまいました。「そういうアルバムは他のところで出してくれ」、というのがアイヒャーの言い分でしょう。ECMのアルバムを買う人は、このレーベルのカラーで買うので、致し方ないことかもしれません。


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アルヴォ・ペルト(1935〜)は、旧ソ連のエストニアに生まれました。1979年にオーストリアに移住するまでは、「鉄のカーテン」の外の音楽を知ることも許されず、共産主義のイデオロギーに奉仕するよう求めらて、苦労していたものと思われます。現代音楽の一派であるミニマリズムに属すると言われますが、ペルト自身はバロック期よりも古い時代の影響を受けた、「ティンティナブリ」という様式を主張しています。

ペルトの「アリーナ」と題された、1995年に録音されたアルバムが再発されました。「鏡の中の鏡」と「アリーナ」の2曲が、バージョンを変えて交互に演奏されています。ピアノとヴァイオリンのデュオ、ピアノ独奏、ピアノとチェロのデュオ。モノトーンの世界に入りこんで、ときの流れを感じるような音楽です。無駄な音はひとつもなく、研ぎ澄まされてはいるのですが、温もりに包まれています。

1970年代のECMは、予算をかけられないという事情もあって、ソロやデュオの作品が多かったのです。「一音あたりいくら」みたいに考えてしまうと、ずいぶん高くつくレコードでした。そうした事情もあってか、日本のレコード会社は、「沈黙の次に美ししい音」というキャッチコピーで売り出していました。ラルフ・タウナー(g, p)、ヤン・ガルバレク(ts, ss)、ジョン・テイラー(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、最近ではトルド・グスタフセン(p)やケティル・ビヨルンスタ(p)などのアーティストは、まさにそう呼ぶにふさわしいアルバムを作っていました。

ペルトの「アリーナ」は、沈黙から浮かび上がる音、のような気がします。いや天から降ってくる音、でしょうか。音楽にありがちな、「オレがオレが」の自己主張が全く感じられません。沈黙のうちに語る、沈黙に感じ入る、そんな印象をもちました。
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2014年12月29日

Diary / Ralph Towner

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ラルフ・タウナーのデビューアルバムは予算の都合か、ギターとピアノの多重録音。自分で自分に合わせる演奏って、やっていて楽しいのかな。でもそんな心配をよそに美しいとしか言いようがない音楽で、今でも新鮮です。
(1974年)
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2013年10月31日

Anthem / Ralph Towner

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ギター一本で、静謐な世界を紡ぎ出すタウナー氏。しみじみと暗い曲想から繊細な人かと思いきや、陽気でお茶目なオッサンらしいです。実はジャズピアノも達者で、ビル・エヴァンスの熱烈なファン。「ソロ・コンサート」の「ナルディス」では、エヴァンス盤のベースソロをコピーしてはさんでいます。
(2000年)
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2010年12月24日

Officium / Jan Garbarek

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ヤン・ガルバレク(ss,ts)が、古楽をレパートリーとする男声4人のヒリヤード・アンサンブルと共演したアルバム。15世紀の宗教曲、グレゴリオ聖歌、作者不詳の古謡など、どこまでも深く透明で美しい。「日本のクリスマス」のBGMには不向きです。(1993年)
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2010年09月16日

Jasmine / Keith Jarrett

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つきあいの長いベースのチャーリー・ヘイデンと、しみじみとメロディーを紡ぎ出すキース・ジャレット。てらいもなく、気負いもなく、音数も少なく。キースは「夫婦や恋人で、一緒に聴いて欲しい」と言っていますが、愛する人と年齢を重ねる喜びが込められているように思います。(2010年)
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2010年06月05日

Swimming With A Hole In My Body / Bill Connors

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邦題は「水と感傷」でしたが、この原題はどういう意味でしょう。アコースティック・ギター(多重録音あり)による、静かで美しく、内省的な音楽です。ビル・コナーズはフュージョンに戻っていったそうですが、こういう作業は長く続けられるものではないのかもしれません。(1980年)
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2010年03月05日

Dis / Jan Garbarek

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ヤン・ガルバレク(ts,ss,fl)が、ラルフ・タウナー(g)と共演したアルバム。風の力で弦が鳴って胴が共鳴する、ウィンド・ハープと言う楽器?も入っていて、効果を上げています。ノルウェイの南海岸に、北海から吹き寄せる風が詰まっています。
(1976年)
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2009年10月28日

Solo / Egberto Gismonti

Solo.jpg幼少時からクラシックピアノを学び、ナディア・ブーランジェ女史に作曲を師事して、多弦ギターや民族楽器も自在に操ってしまう鬼才、エグベルト・ジスモンチのソロ演奏。インディオたちとの生活も経験したそうで、広大なアマゾンの大地に浸らせてくれます。(1979年)
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2009年07月12日

19 (Solo) Compositions,1988 / Anthony Braxton

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タイトル通り、スタンダード・ナンバー3曲を含む19曲がアルトサックスのソロで演奏されています。コンサートでのライブ録音。キャンバスに極太チューブを押しつけてぐいぐい描いたような、表現の極限に挑んだ作品です。
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2009年06月12日

ピヤノアキコ / 矢野顕子

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3枚のピアノ弾き語りアルバムから編集された、ベスト盤。たくみな曲の解釈と再構成にも、破天荒に見えて実は緻密な技巧にも目を見張りますが、いちばん心に残るのは彼女のほんわかと暖かい雰囲気です。(2003年)
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2009年05月06日

Senhora da Lapa / Maria Ana Bobone

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ポルトガルのファドの新星、マリア・アナ・ボボンがピアノをバックにリスボンの教会で歌っています。曲によっては柔らかな音のサックスと、ポルトガル・ギターが加わります。透んだ歌声に心洗われる一枚。(1998年)
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2009年04月18日

19世紀ギター・デビュー!/福田進一

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題名は少々いただけませんが、何度聴いてもあきません。ソルなどの名ギタリストによる曲を、現代のギターよりも小ぶりな19世紀の楽器で演奏しています。秩父の音楽堂の響きも、心地好いです。

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2009年04月09日

Red Lanta/Art Lande

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アメリカ人のアート・ランディ(p)の手になる曲に、ノルウェイのサックス奏者ヤン・ガルバレク(ss,fl,bass-s)がつきあっています。ランディの湧き出るようなメロディと、フルート奏者としてのガルバレクを堪能できます。いつ聴いてもみずみずしさを感じます。(1973年)
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2009年03月28日

Return To Forever/Chick Corea

rtf.jpgECMは1970年代から活動しているドイツのレーベルで、Edition for Contemporary Musicの名にふさわしい、独特の世界を作っています。このアルバムではずいぶん潤ったと思いますが、テクニック重視のバンドになっていった結果を見ると、続編を拒んだのはプロデューサーのアイヒャー氏の見識だと思います。(1972年)
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2009年03月13日

Undercurrent/Bill Evans

Undercurrent
ジャズファンにはおなじみの名盤ですが、ビル・エバンス(p)とジム・ホール(g)の1962年の録音です。寄り添ってみたり、突っ込みを入れてみたり、語り合うような音のやり取りが楽しく、ほのぼのとした気持になります。
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2009年03月04日

夢見る魚/高橋アキ

夢見る魚
1976年に録音された、エリック・サティのピアノ曲集。有名な「ジムノペディ」はもちろん、おどけた表題曲やシャンソンも入っていますが、きれいに流れるだけのサティではありません。残念ながら、CDは廃盤になっているようです。
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