
著者のノーマン・ドイジは古典と哲学を専攻した後に、精神医学を学び、精神分析家になりました。作家、エッセイスト、詩人でもあるという、多才な人のようです。この本は前著「脳は奇跡を起こす」(絶版でけっこうなプレミアがついてしまっているので、未読です)の続編で、外傷の痛み、パーキンソン病、脳卒中後遺症、学習障害、自閉症など、脳の器質的、あるいは不可逆的な働きと考えられてきた現象が、歩いたり神経刺激の装置を使ったり、あるいは聴覚訓練によって、改善されることを記述しています。
当事者へのインタビューと、著者の明確な考察によって構成されており、その背後には膨大な文献の渉猟があります。精神分析家ならではの、ストーリーを導き出して言葉にする能力によっているものだと感じました。若い頃は神経心理学に惹かれたこともあったのですが、脳と言うハードウェアの不具合によって、行動がどう影響を受けるのかという説明に終始している印象をもってしまい、あまり興味を持てなくなっていました。それはでは固定的で、ダイナミックな心の動きとはつながっていないですから。
私は「心」とは、「身体内(脳を含む)の相互作用によって生じる、よりよく生きようとする現象」ではないかと考えています。心理療法は「よりよく生きようとする現象」を治療するのではなく、「よりよく生きようとする現象」に働きかけることで治療的な効果を生み出そうとすることです。脳の可塑性に関する研究は、「身体内(脳を含む)」の相互作用」に光を当てるもので、これからの医学や心理学に、あるいはすべての人の幸せにと言い換えても良いですが、大きな貢献をしていくだろうと思います。