
盛岡市の岩手県立美術館で、柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう 1922〜2022)の回顧展、「永遠のいま」が開かれています。先日に妻と訪れて、膨大な作品群やビデオを堪能してきました。都会であれば人、人、人でゆっくり見ることもかなわなかったりしますが、そこは岩手県民の特権で、広々とした会場でぼんやり眺めることができます。この鯉のぼりだけは、写真撮影可となっています。
柚木さんは戦後に復員してから大原美術館で働き、柳宗悦の「民芸」に出会います。染色工芸家の芹沢_介に弟子入りして、染め物の修行をしてから染色工芸家になりました。女子美術大学で指導をしながら、版画や絵本、切り絵や人形、オブジェなどを制作して101歳で亡くなりました。最晩年まで作品を作り続けて、インタビューにも応じていました。それが「柚木沙弥郎のことば」(柚木沙弥郎・熱田千鶴著 グラフィック社)という本にまとめられています。
売店で手にとって帯にあった、「いつからはじめたっていいんだよ。僕だって物心ついたのは80歳になってからなんだ」の文字に釘づけになりました。美学を専攻した東京大学を卒業して工芸家、大学教授になり、絵本の挿絵などの仕事も手がけ、パリで何度も個展を開いた人です。言ってみれば功成り名を遂げた人で、60を過ぎたら孫の相手でもして、だんだんに社会とのつながりも減らしていって、あとはお迎えをが来るのを待つ、みたいな人生ではありません。
まだその本を読んではいませんが、ゆっくり楽しめれば良いなと思っています。おそらくは固定観念にとらわれず、子どものような好奇心をずっと持ち続けた人ではないかと、作品からは想像しました。