2013年11月09日

ロールシャッハ 生誕129周年

1108_1.jpg

昨日の話になってしまいますが、11月8日はGoogoleのロゴが「ヘルマン・ロールシャッハ 生誕129周年」になっていました。129周年とはずいぶん半端な気もしますが、外国にはそういうアニバーサリーがあるのでしょうか?ロールシャッハ・テスト風の模様を見て、反応を投稿する遊びもありました。

ずいぶん昔の話になりますが、いしいひさいち氏の4コママンガに、こんなのがありました。

1.博士が図版を手渡す 「何に見えてもいいですよ」

2.男が図版をじっと見る

3.反応 「……毛ガニ」

4.博士たちが笑いをかみ殺しながら、ヒソヒソ話をする

「何に見えてもいいですよ」と言いながら、異常性をあぶり出そうするいやらしさ、みたいなことがたくみに描いていると思いました。戯画化されるとこんな風になってしまうのですが、「何に見えても良い」のと「変なことを言うと変な人になる」という二重拘束をどう乗り越えるかが、このテストの一つの側面でもあります。

被験者にとってはストレス状況なのですが、それをどう乗り越えるかに、その人らしさが出てくるということでもあります。じっとしていてもわからないけど、運動をさせると心肺機能がはっきりわかるとか、そういった類の現象です。被験者には負担をかけることになるので、安易にするものではありません。また結果をどう生かすのか、被験者にどうお返しするのか、そこまでしっかり考えなくてはいけません。
posted by nori at 08:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理アセスメント

2010年10月15日

まだ見ぬ WAIS-V

 心理学者のDavid Wechsler(1896〜1981)は、ルーマニアに生まれて子どもの頃にアメリカに移民したそうです。彼が作った知能検査はウェクスラー式と呼ばれており、もっとも信頼性が高いとされて広く使われています。大人向けがWAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale ウェイスと読みます)、子ども向けがWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children ウィスクと読みます)で、日本ではともに第3版まで出版されています。

 知能検査と聞くと、「学校で記入式のものを受けたよ」と言う方が多いと思います。まああれも知能検査のうちに入るのでしょうが、臨床の現場では使われていません。ウェクスラー式の知能検査は、マンツーマンで行ないます。言葉で問題を出して答えさせる言語性の課題と、視覚から判断して解決する動作性の課題が、それぞれ何種類もあります。よくIQがいくつだとか言われますが、ウェクスラー式はトータルのIQだけではなく、課題ごとの得意、不得意の差を見ることで知能の構造を分析的に見ることができます。

 発達障碍を診断する時の有力な資料になったり、その子に合った指導法が見えてくることも多いので、WISCの方は教育の世界でもよく知られています。中学校では特別支援教育に関わっていない先生でも、普通に「ウィスクサード」(WISC-V)と言っています。

 さて大人向けのWAISなのですが、私は先代のWAIS-Rまでしか施行したことがありません。今や時代はWAIS-Vで、動作性の課題が追加されているようです。2008年には英語版のWAIS-Wが出版されたそうで、日本では標準化されて出版にこぎつけるまでにはあと何年かかかるでしょう。私は自分ではもう知能検査をする機会も必要もないと思うのですが、それでもクライエントを紹介された時にレポートがついてきたりすると、どのような検査になっているのか知っておいた方が良いだろうと思うのです。でもそのためにWAIS-Vを買うことはできません。WAIS-Rでも立派なアタッシュケースに入って、10何万はしていました(夏場はそのアタッシュケースの内張に紙箱がひっついて、難儀したものです)。
 
 講師に行っている大学で、見せてもらうことにしましょ。
posted by nori at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理アセスメント

2010年06月27日

間違いだらけの? バウムテスト

 バウムクーヘンが人気のようですね。私が住んでいる町にも、専門のお菓子屋さんがオープンしたそうです。バウムとはドイツ語で「木」。バウムテストは、樹木を鉛筆で描く心理テストです。スイスのコッホが始めたもので、日本でも広く行われてきました。私自身も、数え切れないくらい描いてもらったことがあります。とくにロールシャッハ法の前に描いてもらうと、ウォーミングアップのような感じで導入にも良いし、比較して検討することもできて重宝していました。

 ところがこのマニュアルが、どうやら間違いだらけらしいのです。原書がドイツ語ですが、日本語訳は英語版から訳されています。ところがもとになった英語版にも間違いがあって、日本語訳はさらに誤訳だらけとのこと。その日本語版はgoogleでデータ化されていて、ネット環境があれば誰でも見ることができるようになっています。そうなるとこれを野放しにしていて良いのかと言う問題が出てきます。マニュアルを読んでからテストを受けるような人が出てくると、テストが成立しなくなって、結局はクライエントの不利益につながるからです。

 もともとバウムテストはマニュアルを見ても、ある特徴についてまるで正反対の解釈が載っていて、解釈はテスターの経験則によるものが大きかったのです。私はマニュアルはあてにならないと思ってやってきたので、「間違いだらけ」と聞けばさもありなんと思うし、ネットでご開帳されていてもさほど実害がないような気もしてきます。正確な翻訳によるマニュアルは、出版されるのでしょうか。
posted by nori at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理アセスメント

2010年01月06日

投影法と質問紙法

 ロールシャッハ法のようにあいまいな刺激に反応させる心理テストは、投影法(Projective Test)と呼ばれています。他にTATやSCT(文章完成法)、描画テスト(バウム・テスト、風景構成法etc.)などがあります。これに対して具体的な質問への回答を、標準化されたデータをもとに解釈するのが質問紙法です。代表的なものにMMPI(ミネソタ多面人格目録)、Y−G性格検査、TEG (東大式エゴグラム)などがあります。

 まず投影法と、精神分析で言う投影は区別しておく必要があります。投影とは自分で抱えておくことができない無意識的な感情や葛藤を、他者が持っていることにしてしまう防衛です。本当は自分が怒っているのに、その怒りが外側に体験されて、「怖い目でにらまれる」と言うのは投影の働きです。ロールシャッハ法でこの投影が見られることもありますが、それを調べるためのテストではありませんし、そもそも投影と言う精神分析の概念を用いないテスターもいます。 

 さて投影法は質問紙法よりも、無意識的な情緒や葛藤を明らかにする、とされてきました。その根拠は、精神分析の理論によっています。「乳幼児は言葉が発達していないので、視覚的なイメージで蓄積された体験が無意識化している」と言うことです。これに対して言葉のやり取りである質問紙法は、防衛機制の発達とともに獲得した言葉で加工さたものしか出てこない、と言うわけです。これは少々強引な理屈に見えますし、ことさらに「ロールシャッハで無意識を明らかにする」みたいな構えは、ない方が良いだろうと考えています。

 ただMMPIは別として、ほとんどの質問紙法が被験者の判断力や、作為のない受検態度を前提にしているのに対して、投影法にはそのような前提が不要です。被験者の判断力・表現力の欠損や検査状況の理解度、作為などが見えてくるので、たとえば精神疾患の患者さんにも適用できるのです(それもテスターの主観的な判断に頼っている、と言われてしまえばそれまでですが……)。
posted by nori at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理アセスメント

2009年12月27日

ロールシャッハ法の歴史

 ここのところ、大学院でロールシャッハ法の授業をしていました。私自身は大学院を出ていないし、授業でロールシャッハ法を習ったこともないしで、こんな役回りになるとは思ってもみませんでした。さらに複雑な気分にさせるのが、いま自分ではロールシャッハ法をほとんどしていないことです。「昔取った杵柄」よりは「現役バリバリ」の方が良いのだろうなあとも思いつつ、自分なりに伝えるべきことは、伝えて行こうと考えています。

 スイスの精神科医、ヘルマン・ロールシャッハが「精神診断学」を刊行したのは1921年です。ロールシャッハが指導を受けていたのは、統合失調症の研究で有名なブロイラーでした。ロールシャッハは、統合失調症と他の精神疾患の鑑別をするために、スイスの子どもたちに伝わっていたインクのしみ遊びが有効であることを見いだしました。ロールシャッハは精神分析に並々ならぬ関心を持っていたと伝えられていますが、インクのしみ遊びに関しては認知のプロセスに注目して、精神分析の理論を用いることはしませんでした。私は「何を見るか」(認知の内容)よりも、「どのように見るか」(認知の様式)を重視したことに、ロールシャッハの天才があると思います。

 ロールシャッハは「精神診断学」に用いる図版を、40枚にまとめたそうです。しかしどの出版社にも断られ、ようやく引き受けてくれた出版社からはコストの関係で図版を10枚に減らすように求められました。また原図にはインクの濃淡がなかったのに、印刷が仕上がった時には濃淡がついていたそうです。このような不本意な状況やミスが、結果的にはロールシャッハ法の発展に寄与したと言われています。

 さて苦労して「精神診断学」を出版にこぎつけた翌年に、ロールシャッハは37歳でこの世を去りました。本は数冊しか売れず、学会では酷評され、おまけに出版社も倒産の憂き目に遭いましたが、ごくわずかな理解者によって彼の遺志は引き継がれていきます。そしてアメリカからの留学生が持ち帰ったり、ヨーロッパから研究者が移住したことで、ロールシャッハ法はアメリカで開花しました。ベックが客観的なデータをもとにした解釈法を押し進めたのに対して、ユング派の分析家だったクロッパーより主観的な解釈を用いる体系を作り上げました。アメリカではクロッパー法を始めとする5つの体系が普及し、さらにはテスターが独自に異なる体系を組み合わせたり、個人的な経験をもとに変えたりしていました。

 これに対してエクスナーは膨大なデータをもとに、信頼性を徹底して高めた「包括システム」を体系化しました。現在のアメリカではクロッパー法は過去のものと見なされており、ロールシャッハ法に関して発表される論文は全て包括システムに基づいているそうです。日本では片口安史がクロッパー法に準拠して体系化した、片口法が広く普及しています。包括システムは20年ほど前から邦訳が出版されたり、セミナーが開かれています。
posted by nori at 20:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理アセスメント