2020年11月05日

キース・ジャレットの脳卒中

大好きなピアニスト、キース・ジャレットが2018年に2回の脳卒中を起こして、左半身にまひが残っているそうです。いまは杖をついて歩いているけど、ここまでくるのに1年以上を要したとか。「左手の機能で回復で望めるのは、コップを握ることくらい」で、「自分がピアニストには感じられない」とインタビューで語ったそうです。

私がジャズを聴き始めた学生時代、ピアニストで言えばキース・ジャレットやチック・コリア、ハービー・ハンコックは若手の旗頭という感じでした。とくにピアノ一台を前にして、思いのままに即興で弾くコンサートは前人未踏の境地を切り開いていたと言えます。「うなり声がうるさい」と嫌うリスナーもいたし、オスカー・ピーターソンにはこき下ろされるし、自らはウィントン・マルサリスの演奏を批判したりで、色々と物議をかもす人ではありました。でも三人の中では、コマーシャリズムに流れないで純粋に音楽を追求していたのはキースでした。そのキースもいまや75歳で、脳梗塞に苦しんでいるとは、自分だって歳をとってるんだなあと感じざるを得ません。そして大酒飲みで有名だったハンコックよりも先にダウンしてしまうとは、人生分からないものです。

ちょっと気になっているのが、病気の発症から2年も経って公表していることです。もしかしたら、うつ状態になっていたのではないでしょうか。やっと自分の障害を受け容れることができるようになって、公表したのかもしれません。私としては、ピアニストであることから解放されて、作曲をしてくれないかなと思っています。キースはジャズはもちろん、バッハやヘンデル、ショスタコービチなどのクラシック作品でも素晴らしい演奏を残しています。オーケストラの曲も書いているのですが、キースだったらもっと圧倒的な作品を書けるように感じていました。音楽活動をする意欲はなかなか湧いてこないかもしれないし、仕事をしなくても十分に暮らしていけるのでしょうけど、音楽家に生まれついたような人なので、ひそかに期待しています。

キースのソロ・コンサートは一度だけ、新潟市で聴いたことがあります。本当に美しい時間で、終わってから立ち上がるまで時間がかかりました。そして何十枚かある、LPレコードとCD。今まで沢山の音楽体験をさせてもらいました。安らぎと生きがいのある余生であることを、願っています。
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2020年10月12日

ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)

もう20年以上も前の話ですが、新潟から岩手に引っ越すときにジャズの仲間から言われました。「ベイシーには行くなよ。お前みたいなヤツが行くと、ケンカになるから」。「お前みたいなヤツ」とはどんなヤツのことを言うのか? それはさておいて。もちろん岩手に住んでから、ほどなくしてベイシーには行ってみました。でもマスターと話をするわけでもなく(話をするのが難しい大音響です)、黙ってレコードを聴いて、黙ってお金を払って帰るだけです。マスターも黙ってお金を受け取るだけで、何回行っても、その繰り返しでした。だから最近になって「ありがとうございました」などと言われると、「この人死ぬんじゃなかろうか」などと思ってしまうのです。

でも、マスターはこっちのことをジッと見ているような気がします。一枚ごとに、どんな反応を示すのか。そして「今度は、これでどうだ!」みたいに、盤を選んでいる。そしてお金を払うときに、「イイのを聴かせてもらいました」とか「良く鳴ってますね」という顔をしているかどうか。観光地みたいになってしまって、こんな無言の会話をしないまま帰る客には、たぶんマスターはがっかりしていると思います。ジャズ喫茶仲間には、「スマホで写真を撮るだけの客なんか、うんざりする」とこぼしていたようですから。

マスターは映画の中で、「ジャズというジャンルがあるんじゃなくて、ジャズの人がいるんだ」と言っていました。それはそうだとは思うのですが、でもジャズという音楽を愛する者どうしのつながりもあると思うのです。世間的な地位やその他の分け隔てなく、ジャズを前にしたらみんなひとしくバカになるというか、そんな、ある種のコミュニティと言ったら良いのでしょうか。

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私はジャズもオーディオも珈琲も好きで、若い頃はご多聞にもれず、ジャズ喫茶のマスターに憧れていました。でも実際にやることを考えると、いくら好きな音楽でもずっと聴いてはいられないと思ってしまいます。オーディオ装置の調整に余念なく、そして飲み物を客に出しながら、レコードを一枚一枚、演奏する。開店から閉店までの間ずっと、大音量で。それを連日、何十年も。生半可なことではできません。私なんぞには到底できないことで、本当に凄いことだと思ってしまうのです。感動するのは、菅原正二(マスター)という存在に対してですね。
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2020年09月18日

サブスクの反対側にあるもの

「無料体験」に引きずられて、密林のサブスクというか、サブスクの密林というか、ほぼ独占事業化しつつありそうな、某社の聴き放題サービスに申し込んでみました。私がつないだのは、毎月CD1枚分くらいの料金で、CDなみあるいはそれ以上(いわゆるハイレゾ)の音質で6500万曲のコレクションが聴き放題というプランです。Windows10のPCにプレイヤーのアプリをダウンロードして、USB経由でDACに、そしてアンプからスピーカーにと、という経路です。

はっきり言って、音質は良くないです。何となくキレイなんだけど、ベールがかかっていてツルンとした、のっぺりしたような音です。同じアルバムをCDと聴き比べてみるまでもなく、雑食性の私の耳でも分かります。サンプリング周波数がどうとか、16ビットがどうとか、そんなデジタルのスペック以前のレベルだと感じました。もちろんパソコンはノイズの巣だし、USBなんていい加減な転送なので、オーディオ用のネットワークプレイヤーを使えば確実に音質は良くなるのでしょうが、この深い溝を超えることができるのか? かなり怪しいです。それと曲の表示がロックやジャズはともかく、クラシックは曲名が英語だと長くなって枠の中に収まらず、選曲しづらいです。

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食通で知られた開口健は、「自腹を切らないと料理の味は分からない」と書いていました。そんな言葉を思い出します。聴いてみたいアルバムを、自腹を切って手に入れる。自腹は切るけど、なるべくなら安く。手に入れたからには、モトを取るのに聴きこむ。一枚のCDを、レコードを、良い音で演奏するためには、装置にもこだわる。聴いてみてつまらないのは、時間がもったいないからお蔵入り。作品鑑賞とは高雅なはずなのに?、「お金」と「時間」にこだわる下世話な性分が、集中を生むような気もします。

サブスクの恩恵で、いままでなかなか手の届かなかった音楽も聴いています。聴いてはみたいけど、わざわざ買うのかなという、そういうアルバムですかね。サブスクを入れたらいつも満腹気味になってしまって、かえって聴かなくなるんじゃないか、そんな気もしてきます。
posted by nori at 21:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 音の考現学

2020年08月13日

ロケット・マン

たぶんガッカリするだろうから、見ないでおこうかなと思っていました。思いがけず妻がブルー・レイを借りてきてくれたので、あっさりと抵抗が崩壊しました。観てみたらやっぱりと言うか、事実とは異なる脚色もさることながら、タロン・エジャトンの歌がどうにもいただけませんでした。詩人のバーニー・トーピンとエルトンの母親を演じた俳優さんは、好演していたと思います。

スターダムにのし上がったエルトンが、奇抜なコスチュームでグループセラピィに登場します。「治したくて来た」とは言うけれど、彼の場合はアルコール、薬物、買い物、セックスへなどの、依存症のオンパレードです。性的な指向はバイセクシャルで、慢性的に自殺願望も抱いていました。何を治したいのか? 私が勝手に思ってしまうのは、「必要とされる必要」にかられてしまうことかな、ということです。エルトンは家族や恋愛の相手だけではなく、ライブに集まってくる聴衆、サッカーチーム、あるいはエイズで苦しんでいる少年など、さまざまな人々に手を差し伸べます。毒舌家とも知られ、ネットで物議をかもすこともしばしばでした。

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もしかしたら、エルトンは「望まれない妊娠」で生まれた子どもだったのかもしれません。誰からも必要とされていなかったから、「必要とされる必要」にかられるようになったというのは、単純に過ぎる想像でしょうか。
posted by nori at 18:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画に見るこころ

2020年06月23日

リザード

パソコンやスマートフォンのブラウザを開くと、勝手に「興味のありそうなこと」が表示される時代になりました。いきなり「イギリスのジャズ・ピアニスト キース・ティペット氏逝去」などと出てくると、ちょっとびっくりします。彼が心臓発作で72歳で亡くなったことに、ではなくて、あまりにもニッチな「興味のありそうなこと」を突いてきたことに、です。

ジャズ・ファンの中でもキース・ティペット名義のアルバムを持っている人は、よほどの剛の者と言うか、痴れ者と言うか、まあその類の人なんでしょう。私は一枚も持っておりません。せいぜいプログレッシブ・ロック(なつかし〜)のキング・クリムゾンに参加した作品です。有名なのは「ポセイドンの目覚め」の「キャット・フード」とか、「アイランド」の表題曲のソロとか、でしょうか。追悼のために、学生時代から聴いていなかった「リザード」を引っ張り出して聴いてみました。ずっとラックに収まって日の目を見なかったのは、ひとえにゴードン・ハスケルのヴォーカルが気にくわなかったからです。一曲だけイエスのジョン・アンダーソンが歌っていて、これは素晴らしい。他の曲もジョンが歌っていれば……なんて思っていました。

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キング・クリムゾンはギタリストのロバート・フリップを核に今も活動を続けているようですが、私は「レッド」まででフォローを止めていました。やっぱり「レッド」が一番好きかもしれません。デビューアルバムの「クリムゾン・キングの宮殿」はビートルズの「アビー・ロード」を抜いたとかで、ドデカ顔のジャケットとともに超有名。そのあとは「アイランド」、「太陽と戦慄」……と傑作が目白押しで、「リザード」は地味なアルバムです。でもあらためて聴いてみると、なかなかに良いなあと思うのです。若いときはロックしか聴いていなかったので散漫に感じていましたが、スリリングなインタープレイはさすがに即興演奏を得意としたグループならでは、です。キース・ティペットのプレイも切れ込みが鋭く、さすがにフリー・ジャズとロックの間を行き来した人らしい、ツボにはまった演奏を聴かせてくれます。

posted by nori at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | おやつにロック

2020年05月27日

箱が好き

テレワークでパソコンに向かっていると、猫がジャマをしにくる。「かまってよ〜」って感じでしょうが、「ネコハラ」と呼ばれて、飼い主を困らせて(喜ばせて)いるようです。でも近くに箱を置いてしまえば、さっさと箱に収まってしまうのがまた猫の特性であって、気ままですね。荷造りのために段ボールを置いていたりすると、うちのエリックも、こんな感じです。

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posted by nori at 07:58| Comment(0) | TrackBack(0) | にゃんころじい